ほたての貝殻を開けると、真ん中の大きな貝柱のまわりに、うすい膜のようなものが重なっているのが見えます。オレンジや白の生殖巣、ふちのヒモ(外套膜)、そしてその内側にある、細かいすじの入ったひだ。このひだが鰓(えら)です。
魚の鰓は呼吸のための器官ですが、二枚貝の鰓は少し事情が違います。呼吸と食事、その両方を担当しているのです。
鰓の表面で起きていること
鰓の表面には、繊毛(せんもう)と呼ばれる非常に細かい毛が無数に生えています。この繊毛が一定のリズムで動くことで、貝の内側に水の流れが生まれます。
流れ込んだ海水は鰓を通り抜けていきます。このとき、二つのことが同時に起こります。
| 起きること | 役割 |
|---|---|
| 海水中の酸素が鰓の表面から取り込まれる | 呼吸 |
| 海水中の粒子が鰓に引っかかる | 食事の準備 |
引っかかった粒子は、鰓が出す粘液にとらえられ、繊毛の動きによって口のほうへと運ばれていきます。ベルトコンベアのような仕組みです。
つまりほたては、じっとしているあいだも呼吸をしながら食べ続けている、ということになります。
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「選んで食べている」という意外な事実
海水の中には、食べられるプランクトンだけでなく、砂や泥の粒も混ざっています。ほたてはそれらを無差別に飲み込んでいるわけではありません。
鰓や、その先にある唇弁(しんべん)と呼ばれる器官のはたらきによって、粒の大きさや性質である程度のふるい分けが行われます。食べないと判断されたものは、粘液にくるまれて外へ排出されます。これは擬糞(ぎふん)と呼ばれます。
小さな貝が、口に入れる前の段階で取捨選択をしている。単純な生き物に見えて、意外と手が込んでいます。
水温と鰓のはたらき
繊毛の動きは、水温に左右されます。水温が下がりすぎても上がりすぎても、動きは鈍くなります。
- 適した水温のとき:水を活発に通し、よく食べ、身が育つ
- 水温が高すぎるとき:活動が落ち、消耗しやすくなる
陸奥湾の水温がほたて養殖に向いているとされるのは、この「働きやすい範囲」に収まっている期間が長いからです。海の条件がそのまま、貝柱の育ち方に表れてきます。
食卓の上の鰓
蒸しほたてを食べるとき、鰓はふつう取り除かれています。私たちが主に食べているのは、大きく育った貝柱と、その周辺の部位です。
けれども、その貝柱が育つために毎日はたらいていたのは鰓でした。一粒の甘みの裏側には、何か月ものあいだ静かに水を通し続けた器官がある。そう思うと、いつもの一皿が少しだけ違って見えてきます。
まとめ
ほたての鰓は、呼吸装置であり、同時に食べ物を集める装置でもあります。繊毛が水を動かし、粘液が粒子をとらえ、選別を経て口へ運ばれる。目立たない器官ですが、ほたての一生を支えているのはここです。



