ほたて養殖と聞くと、ロープに吊るされた貝が海の中で育つ光景を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれども話はもっと手前から始まります。そもそもその貝たちは、どこからやってくるのでしょうか。
出発点は海を漂う幼生
ほたては春に産卵し、受精卵は幼生となってしばらく海中を漂います。この時期の幼生は肉眼では見えないほど小さく、自力で泳ぐ力もほとんどありません。潮の流れに身をまかせながら、やがて落ち着ける場所を探しはじめます。
幼生には、糸状のものや細かい隙間のあるものに付着する性質があります。自然界では海藻などにくっついて稚貝へと育っていきますが、養殖ではこの性質を利用します。
採苗器を海に吊るして待つ
漁業者は、目の細かい網の袋のような「採苗器」を海中に吊るします。幼生が付着しやすい構造にしておくことで、漂ってきた幼生が自然と入り込み、そこで稚貝へと成長するのです。
| 段階 | 起きていること |
|---|---|
| 産卵期 | 海中に卵と精子が放たれる |
| 浮遊期 | 幼生が海中を漂う |
| 採苗 | 海に吊るした採苗器に付着する |
| 分散 | 育った稚貝を取り出し、次の工程へ |
種苗を人工的に生産する方法もありますが、陸奥湾のようにほたてが自然に多く生息する海域では、海が生み出す幼生をそのまま迎える方法が長く続けられてきました。海そのものが苗床になっている、と言い換えてもいいでしょう。
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タイミングがすべてを決める
採苗の難しさは、時期の見きわめにあります。採苗器を吊るすのが早すぎれば、幼生が来る前に器具に他の生物が付着してしまいます。遅すぎれば、幼生の群れが通り過ぎた後になってしまう。
- 早すぎると他の付着生物に場所を取られる
- 遅すぎると幼生の時期を逃す
- 水温や潮の流れで、その年の適期は変わる
そのため漁業者は海の様子を注意深く観察し、海水温やプランクトンの状況をもとに投入の時期を判断します。その年の稚貝の獲れ方が、二年三年先の水揚げに影響していく。長い時間軸で海と向き合う仕事です。
集めた稚貝はどこへ
採苗器から取り出された稚貝は、大きさをそろえて選別され、より広い環境で育てられていきます。やがて耳吊りやカゴといった方法で、食卓に届く大きさまで育てられます。私たちが手にする一枚の貝は、こうして何年も前に海を漂っていた小さな幼生の続きなのです。
まとめ
ほたて養殖は、海を漂う幼生を採苗器で迎えるところから始まります。時期の見きわめが要となる繊細な工程であり、海が生み出す命をそのまま受け取るという、自然に寄り添った営みでもあります。


