ほたては海の中で、卵と精子をそのまま水中に放出して受精させる「体外受精」という繁殖のしかたをとります。相手を探して寄り添うわけでもなく、静かに海底や養殖カゴの中にいながら、まわりの仲間と足並みをそろえて一斉に放出する。この不思議な営みが、ほたての一年のリズムをつくっています。
水温が産卵の合図になる
ほたてが産卵に向かう引き金のひとつが、水温の変化です。冬の冷たい海で生殖巣をじっくりと成熟させ、春になって水温が上がりはじめる頃に放卵・放精が起こります。陸奥湾のような北の海では、春先がその時期にあたります。
一斉に放出するのには理由があります。卵と精子が海中で出会う確率は決して高くありません。仲間が同じタイミングで放出することで、受精のチャンスが大きく高まるのです。
産卵前後で身の状態は変わる
産卵は貝にとって大きなエネルギーを使う出来事です。そのため、産卵前後で身の状態には次のような変化が見られます。
| 時期 | 生殖巣 | 全体の状態 |
|---|---|---|
| 産卵前 | ふっくら大きく色が濃い | 蓄えを使って成熟が進む |
| 産卵直後 | しぼんで小さくなる | 消耗し、回復に向かう |
| 回復期以降 | 目立たない | 貝柱に養分を蓄えていく |
産卵で消耗した後、ほたては再び餌のプランクトンを取り込み、貝柱に養分を蓄えていきます。「旬」の感じ方が地域や時期で語られ方を変えるのは、この周期があるためです。
🛒 陸奥湾の蒸しほたて、ご家庭にいかがですか?
青森・陸奥湾で家族三代続く塩越商店の蒸しほたて。蒸し上げ当日に急速凍結、そのまま食卓へ。
放たれた卵はどこへ行くのか
受精した卵はやがて幼生となり、しばらくの間は自力では移動できず、海中を漂って過ごします。この時期の幼生はごく小さく、肉眼ではほとんど見えません。やがて付着に適した場所を見つけると、そこに落ち着いて稚貝へと育っていきます。
- 卵と精子は海中に放出され、そこで受精する
- 受精卵は幼生となり、しばらく海中を漂う
- 適した場所を見つけて付着し、稚貝へと成長する
養殖では、この「漂う幼生が付着する」性質を利用して、海中に採苗器を吊るし、天然の稚貝を集めています。産卵という自然の営みが、そのまま養殖の出発点になっているわけです。
まとめ
ほたては水温の上昇を合図に、卵と精子を海中へ一斉に放って受精させます。産卵は大きなエネルギーを使うため前後で身の状態が変わり、その周期がほたてという食材の季節感をつくっています。海の中の見えない出来事が、食卓の一皿につながっているのです。


