ほたての貝殻を手に取ると、中心から縁に向かって放射状にうねが走っているのが分かります。日本の家紋にも使われるほど整った形ですが、この凹凸は見た目のためにあるわけではありません。
波打たせると、薄くても強くなる
一枚の紙は、そのままでは自分の重さで折れ曲がってしまいます。ところが同じ紙を波状に折ると、手のひらに立てても倒れません。断面が波打っていることで、曲がろうとする力に抵抗できるようになるからです。
段ボールの中身が波型なのも、屋根に使うトタン板やスレートが波打っているのも、同じ理屈です。材料をほとんど増やさずに、曲げに対する強さだけを稼ぐ。ほたての殻に走るうねは、この原理を貝が実践しているものだと考えられています。
軽さと強さを、同時に求めた結果
ほたては、危険を感じると殻を開閉して泳いで逃げる貝です。泳ぐためには殻が軽くなければなりません。かといって、薄すぎれば敵に割られてしまいます。
| 求められること | 相反する要求 |
|---|---|
| 泳ぐために軽くしたい | 殻を薄くする方向 |
| 身を守るために丈夫でありたい | 殻を厚くする方向 |
この二つを両立させる方法が、うねをつけることでした。厚くせずに強くする。ほたての扇形の殻は、その解答のかたちだと言えます。同じ二枚貝でも、砂に潜って暮らす貝は分厚くて滑らかな殻を持つものが多く、暮らし方の違いがそのまま形の違いになって表れています。
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水の流れを整えるという見方も
うねの役割は強度だけではないと考えられています。殻を開閉して水を噴き出すとき、表面の凹凸が水の流れに影響を与えている可能性が指摘されています。飛行機の翼やゴルフボールの表面が滑らかでないのと似た話で、凹凸のある表面が必ずしも水の抵抗を増やすとは限りません。
また、海底に横たわっているとき、うねが砂や小石にひっかかって体が転がりにくくなるという見方もあります。ひとつの形が複数の役に立っているわけです。
殻ごと焼くと、うねが役に立つ
料理の場面でも、この形は意外に働きます。殻付きのほたてを浜焼きにすると、うねの間に汁が溜まり、こぼれにくくなります。器としてよくできているのです。
- 殻の窪みが天然の器になる
- 縁のうねが持ち手のすべり止めになる
- 熱がゆっくり伝わり、身が急に締まりにくい
貝殻をそのまま器に使う料理が世界中にあるのも、うなずける話です。
まとめ
ほたての殻のうねは、薄く軽いまま丈夫であるための構造です。段ボールやトタン板と同じ発想を、貝は自分の体で実現しています。次に殻を目にしたら、指先で凹凸をなぞってみてください。あの手ざわりは、生き延びるための設計の跡です。


